平成22年10月以降、中断していたフィリピン地域での遺骨調査・収集事業がようやく再開される運びとなった。
当時、厚生労働省がNPO団体に委託した「海外未送還遺骨情報収集事業」に基づき収容した旧日本兵の遺骨に、フィリピン人の遺骨も含まれているのではないかとの指摘を受け、事業が中断された。その後、事実関係を含め検証が行われ、検証の結果、これまで帰還した遺骨にフィリピン人のものが混入している事実は認められなかった。しかし、フィリピン側に、フィリピンにおける海外未送還遺骨情報収集事業の収容作業に疑念を抱かせたことから、日本とフィリピン政府との間で事業の見直し作業が進められていた。
本会では、フィリピン地域への遺骨収集事業再開に向け会を挙げ国、厚生労働省に対し遺骨収集等の再開を強く働きかけていたが、なかなか作業は進まなかった。
事態打開に動いたのは昨年11月、フィリピンで開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力)の会議に出席した安倍晋三内閣総理大臣が、フィリピンのドゥテルテ大統領に対し直接、フィリピンでの遺骨収集事業の再開を申し入れたことより、フィリピン政府が重い腰をあげ、一気に事が解決した。
日本とフィリピン政府との間で「遺骨収集に係る協力覚書」の署名式は5月8日に行われた。
今後、覚書に基づき、フィリピンでの遺骨調査・収集事業が促進される事が期待される。
日本遺族会では、平成30年度戦没者遺骨収集帰還事業への参加希望者の事前登録を行っている。戦没者の遺児をはじめ青年部(孫、曾孫等)の方にも広く登録願いたい。
申込登録要項は次のとおり
▼実施予定地域及び実施時期
【南方地域等での遺骨収集】
実施予定表参照
※相手国行政機関等との調整、現地の治安状況等の理由により事業が変更、中止となる場合がある。
【旧ソ連抑留中死亡者の遺骨収集】
実施予定表参照
※相手国行政機関等との調整、現地の治安状況等の理由により事業が変更、中止となる場合がある。
▼参加資格
①原則年齢制限はなく、身体健康な者で現地での収容作業等に従事できる者 ②各都道府県遺族会の会員である戦没者の遺児、孫、 ひ孫、甥、姪で、身体健康な者 ③本会の協力団体関係者並びに、本会事業の推進に賛同いただける者
※派遣者は健康診断書並びに宣誓書の提出が義務付けられており、参加の有無については、遺骨収集事業を主催する日本戦没者遺骨収集推進協会の判断に従う。
▼参加登録方法 在住する各都道府県遺族会事務局へ。
参加登録にあたり申込用紙を取り寄せ、全ての項目に記入したうえで、提出願いたい。
なお、参加希望者が推進協会から指定された定員を上回る場合は、選考となる。
日本戦没者遺骨収集推進協会主催でパラオ諸島、ミャンマー、ビスマーク諸島への戦没者遺骨収集団が相次いで派遣され、本会からもそれぞれの派遣団に遺族が参加協力し、各地域で収容作業に従事した。所期の目的を終えて帰国した派遣団は、千鳥ヶ淵戦没者墓苑での引渡式で、関係遺族が見守る中、厚生労働省へと遺骨を引き渡した。
パラオ諸島
パラオ諸島戦没者遺骨収集団は、2月24日から3月8日の期間で実施され、本会からは2人を派遣した。
派遣団はペリリュー島の中央高地(ブラディノーズリッジ/ウルムブロゴル山)、北部高地(水戸山・ヒル・ロー/アミアンガル山)、ホワイトビーチ周辺等の地表及び洞窟内を調査し、遺骨の発見に努めた。また、平成29年度現地調査派遣で既に収容されペリリュー州政府に預けていた未鑑定の遺骨を含め、日本から同行した慰霊事業人類学専門員が鑑定し、79柱を確認した。
3月5日、派遣団はペリリュー島内の「みたまの塔」において、焼骨式並びに追悼式を執り行い、戦没者の冥福を祈った。
ミャンマー
ミャンマー戦没者遺骨収集団は、3月7日から22日の期間で実施され、本会から4人を派遣した。
派遣団は二つの班に分かれて行動し、一班はサガイン管区カレミョー地区及びカレワ地区で収容作業に従事し、カレワ地区タジー村で1柱を収容し、既に過去の現地調査で収容されていた遺骨を合わせて12柱を確認した。二班は、シャン州ペコン地区で、地元住民が戦死した日本兵を洞窟に処分をしたという証言に基づき、洞窟内から約40柱を収容したが、現地住民の遺骨が二柱混在していることが判明したため、今回は遺骨を持ち帰ることを断念し、洞窟近くに保管場所を設置し安置した。
3月20日、ヤンゴンで合流した両班は、北オカラッパ日本人墓地の「ビルマ平和記念碑」前にて追悼式を挙行した。
ビスマーク諸島
ビスマーク諸島戦没者遺骨収集団は、3月7日から22日の期間で実施され、本会から4人を派遣した。
派遣団は、二つの班に分かれ行動し、一班は車両でアラワ、ブイン方面に入り、アラワ地区のコグアン村で2柱、マライ村で1柱を収容したが、ブイン地区では予定した場所での地権者からの許可が得られず今回は試掘を断念した。二班はボートでタロキナ地区に入り、現地住民の協力を得て、136柱を収容した。
ブカ島で合流した両班は、過去の現地調査で既に収容され安置されていた遺骨を含めて315柱をソファノ島で焼骨した。また、3月19日、追悼式を挙行し、英霊に哀悼の誠を捧げた。
日本戦没者遺骨収集推進協会(推進協会)は、マリアナ諸島、硫黄島、東部ニューギニアの遺骨収集派遣団を相次ぎ派遣した。各派遣団は無事帰還し、千鳥ヶ淵戦没者墓苑での引渡式で厚生労働省へ遺骨を引き渡した。
マリアナ諸島
マリアナ諸島戦没者遺骨収集派遣団は、1月31日から2月9日の期間で実施され、本会からは2人を派遣した。
派遣団は二つの班に分かれ、1班はサイパン島において、平成29年度現地調査派遣で既に収容され安置されている遺骨39柱を確認し、遺骨に付着している土砂の除去に従事した。2班はテニアン島で現地住民等に情報提供の呼びかけ及び事業の周知活動を行うとともに、寄せられた遺骨情報地点の確認に努めた。
その後、サイパン島で合流した両班は、2月6日、バナデル飛行場跡地で、焼骨式並びに追悼式を執り行った。
硫黄島
硫黄島戦没者遺骨収集第四回派遣団は、1月30日から2月15日の期間で実施され、本会から六人を派遣した。
派遣団は、掘削調査立会団の現地調査で選定された壕で遺骨収容作業を行った結果、コーストガード跡(米国沿岸警備隊跡)周辺で14柱、滑走路地区地下壕で2柱を収容した。
2月13日、天山の「硫黄島戦没者の碑」前にて追悼式を挙行し、翌日第2回派遣団が収容していた1柱とあわせ計17柱の遺骨を奉持し帰還した。
【硫黄島で収容作業】
東部ニューギニア
東部ニューギニア戦没者遺骨収集派遣団は、2月14日から3月1日の期間で実施され、本会から五人を派遣した。
派遣団は、二つの班に分かれ行動し、1班はオロ州、東セピック州、サンダウン州で23柱、2班はマダン州、モロべ州で60柱を受領・収容した。
東セピック州ウエワクで合流した両班は、2月26日、「ニューギニア戦没者の碑」で追悼式を挙行し、英霊の冥福を祈った。
日本遺族会は、日本戦没者遺骨収集推進協会が実施している海外に未だ残されている遺骨に関する情報収集を行う現地調査及び硫黄島の掘削立会調査に派遣協力しており、マリアナ諸島、ミャンマー、東部ニューギニア、ビスマーク・ソロモン諸島、硫黄島に本会から各調査に1人を派遣し、情報の収集、埋葬場所の試掘等の活動を続けている。
海外の戦域における現地調査は、現地で入手した情報、国立公文書館等における資料調査で厚生労働省から提供された戦没者の埋葬地を特定する情報、推進協会及び厚生労働省に寄せられている戦没者の遺骨に関する情報に基づき現地調査を実施することを目的としている。
マリアナ諸島には、9月と11月に派遣協力し、関係行政機関等と協議を重ね試掘の許可を得て、テニアン島の洞窟内等を調査した結果、58柱の遺骨を収容した。
ミャンマーには、9月と12月に派遣し、カレミョー、タム、トンザン、カレワ等で試掘を実施し、11柱を収容した。
東部ニューギニアでは、10月から11月の間に計3回の派遣が実施され、オロ州で35柱、マダン州で20柱、東セピック州及びサンダウウン州で19柱を収容した。
ビスマーク・ソロモン諸島では、7月と11月にソロモン諸島のガダルカナル島、ピエズ島、マサマサ島、ニュージョージア島、ベララベラ島、マライタ島を調査し116柱、9月にビスマーク諸島のブーゲンビル島タロキナ、ブインを調査し、29柱を収容した。
硫黄島の掘削立会調査は、渇水の影響で調査の中止が続いていたが、9月から12月にかけて計10回実施され、地中探査レーダーに反応があった滑走路地区集水区域、滑走路下及び着陸帯以外のコンクリート舗装反応箇所を対象とした掘削調査に立ち会った。
今後現地調査で収容した遺骨は、遺骨収集派遣団によって柱数等最終的な再鑑定が行われ、日本へと奉還される。