遺骨収集本来の在り方を望む
厚生労働省は、先の大戦の戦没者のご遺骨の収集方法等に関し、関係者の合意形成と広く国民の理解を得るため、有識者、遺族及び遺骨収集の担い手や専門家からなる「戦没者の遺骨収集の推進に関する有識者会議」を設置し、遺骨収集の在り方等について検討し、この程、中間とりまとめを厚労省に提出する事となっていた。本会は、この検討会議において議論されたDNA鑑定等の今後のあり方について遺族の心情に配慮していると言い切れない部分があることから、意見表明をした。
この有識者会議は「戦没者の遺骨収集の推進に関する検討会議(座長=増田弘・平和展示資料館名誉館長、立正大学法学部名誉教授)」で、水落敏栄本会会長(参議院議員)が中心に議員立法として平成28年3月に施行された「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律」に基づいて、本年5月に厚生労働省内に設置された。(本会からは、畔上和男専務理事。遺骨収集経験者として、岡山県遺族連盟理事、笠岡市遺族会会長・秀平良子氏の両名が参画)
遺骨収集を「国の責務」とし、平成28年度から令和六年度までの九年間を遺骨収集の集中実施期間と定め、この法律の下に日本戦没者遺骨収集推進協会が設立され、事業は進められている。
検討会議では、集中実施期間からの三年間を検証し、今後六年間どのように遺骨収集事業を行っていくべきかを中心に検討していた。
戦後70年以上が経過し、関係者の高齢化に伴う遺骨情報の減少に加え、現地の環境の変化等により遺骨収集数の減少が指摘されていた。
そうした中で、遺骨を遺族に返還するために、平成十五年度から国費によるDNA鑑定(遺留品等がある場合が条件)が実施されていたが、近年の法医学鑑定技術の進歩等を踏まえ、遺留品等がない南方等戦闘地域の遺骨についてもDNA鑑定を拡大すべく、有識者や遺族、遺骨収集参加者、専門家が議論を重ねていた。
この検討会議において、本会は終始「一日でも早く、一柱でも多くのご遺骨を祖国へお迎えすることを第一義として考えてほしい。」と訴え、その上で、DNA鑑定を拡大する為に収集したご遺骨全てを焼骨せずに日本に持ち帰ることは、防疫面における不安、制度面や技術面での課題が解消されていないことや、鑑定後の弔い、処置等の方策が明確でないこと等遺族の心情に配慮していると言い切れないことから、急遽、正副会長が協議を行い、中間取りまとめが厚労省に提出される前に別掲の通り検討会議に、本会としての意見を表明した。
本会は創設以来、旧戦域に眠るご遺骨の収集を国に求め、国と共にご遺骨の収集をけん引してきた。その中で、常に戦没者に敬意を払い、ご遺族の心情を第一に、一日でも早く、一柱でも多くのご遺骨を祖国へお迎えすることを願ってきた。
DNA鑑定を拡大するための取組として、大学機関の体制、人材の育成の充実は望むところであり、決して反対ではない。
しかし、焼骨せずにご遺骨を国内に持ち込むための防疫面の不安、鑑定後のご遺骨をいかに弔うかなど検討すべき項目は多岐にわたり、今回の提言取りまとめは拙速であると言わざるを得ず、本意見の表明となった。
なお、検討会議の中間取りまとめ案については、議長預かりとなった。
また、令和7年度以降の遺骨収集については、遺骨の情報が得られる限り継続される事が確認されている。
マリアナ諸島応急派遣
日本戦没者遺骨収集推進協会は、マリアナ諸島戦没者遺骨収集応急派遣を、5月13日から24日の期間で、サイパン島で実施し、本会からはサイパン島の戦没者遺族2人が参加協力した。
派遣団は、平成29年度及び30年度の現地調査で、サイパン島、テニアン島で収容し、北マリアナ諸島歴史保存局に保管していた遺骨を確認し、焼骨のために遺骨に付着している土砂を除去する洗骨作業に従事した。
5月20日には、バナデル飛行場跡地で焼骨式並びに追悼式を挙行し、英霊の冥福を祈った。焼骨は二十日の午後から翌日まで夜通しで行われ、236柱の遺骨を奉持した派遣団は、23日無事帰国した。
翌24日、厚生労働省援護会議室で拝礼式が執り行われ、派遣団員、厚生労働省職員、関係団体代表が参列し、日本遺族会を代表して畔上和男専務理事が献花した。
南方4地域現地調査
日本遺族会は、日本戦没者遺骨収集推進協会(推進協会)が実施している、硫黄島における掘削調査及び海外に未だ残されている遺骨に関する情報収集を行う現地調査に協力している。今回、硫黄島、ソロモン諸島、パラオ諸島、東部ニューギニア、マリアナ諸島の各地域の派遣に対し本会からも参加協力した。
硫黄島
推進協会は、防衛省が実施した地中探査レーダーにより反応があった箇所のうち、庁舎地区の反応箇所を重機等による掘削調査の立会業務を行っており、本年度は6月から派遣が始まり3回実施され、本会からも各派遣に一人を参加協力した。
ソロモン諸島
ソロモン諸島現地調査第1次派遣は、5月18日から6月2日の期間で実施され、ガダルカナル島の丸山道を調査した。
派遣団は2つの班に分かれ、1班はタンブ―、タンボハ、シーホース周辺、2班はモカ、タレアイ周辺の第二師団転進経路(丸山道)を徒歩で踏査し、現地住民の協力を得て、埋葬場所等を試掘するとともに試掘箇所のマーキング及びGPS測位の面的調査を行った。
パラオ諸島
パラオ諸島現地調査第1次派遣は、5月26日から6月4日の期間で、ペリリュー島班、アンガウル島班に分かれ調査した。
ペリリュー島班は、オレンジビーチ、ワイルドキャットボウル、ゲドブス島で遺骨の捜索にあたった。アンガウル島班は、昨年度に引き続き、考古学専門員の指導に従い、
サイパン日本人墓地の試掘作業に従事した。
東部ニューギニア
東部ニューギニア現地調査第1次派遣は、六月一日から十四日の期間で、パプアニューギニア・モロベ州を調査した。
派遣団はヘリコプターをチャーターしサラワケット山系ダオットを訪問し、現地住民に遺骨情報の提供を呼びかけた。また、ワス周辺では複数の埋葬場所を確認し、ナンバリワでは村に民泊して、過去に住民が遺骨を収容した野戦病院跡地等をボートで踏査した。
日本遺族会では、2019年度戦没者遺骨収集帰還事業への参加希望者の事前登録を行っている。戦没者の遺児をはじめ青年部(孫、曾孫等)の方にも広く登録願いたい。
申込登録要項は次のとおり
▼実施予定地域
【南方地域等での遺骨収集】
①フィリピン ②東部ニューギニア ③ビスマーク・ソロモン諸島(ブーゲンビル島・ガダルカナル島等)④インドネシア ⑤パラオ諸島 ⑥マリアナ諸島(グアム島・北マリアナ諸島)⑦トラック諸島 ⑧マーシャル諸島 ⑨ギルバート諸島 ⑩ミャンマー ⑪インド ⑫樺太 ⑬硫黄島
【旧ソ連抑留中死亡者の遺骨収集】
①ハバロフスク地方(第1次) ②イルクーツク州・ザバイカル地方 ③ハバロフスク地方(第2次) ④カザフスタン共和国
※相手国行政機関等との調整、現地の治安状況等の理由により事業が変更、中止となる場合がある。
▼実施時期
※南方地域等については、日本戦没者遺骨収集推進協会の事業実施計画が公表され次第、日本遺族通信、ホームページ等で掲載。
※フィリピン、インドネシア、ギルバート諸島については、厚生労働省が相手政府等と協議中のため、現時点では実施は未定。
▼参加資格 ①原則年齢制限はなく、身体健康な者で現地での収容作業等に従事できる者 ②各都道府県遺族会の会員である戦没者の遺児、孫、 ひ孫、甥、姪で、身体健康な者 ③本会の協力団体関係者並びに、本会事業の推進に賛同いただける者
※派遣者は健康診断書並びに宣誓書の提出が義務付けられており、参加の有無については、遺骨収集事業を主催する日本戦没者遺骨収集推進協会の判断に従う。
▼参加登録方法 在住する各都道府県遺族会事務局へ。
参加登録にあたり申込用紙を取り寄せ、全ての項目に記入したうえで、提出願いたい。
なお、参加希望者が推進協会から指定された定員を上回る場合は、選考となる。
日本戦没者遺骨収集推進協会は、マーシャル諸島、ビスマーク諸島、ミャンマーの遺骨収集派遣団を相次ぎ派遣し、本会からもそれぞれの地域に団員を派遣した。現地での収容作業等を終えて無事帰還した派遣団は、千鳥ヶ淵戦没者墓苑で開催された引渡式で関係遺族が見守る中、厚生労働省へ遺骨を引き渡した。
マーシャル諸島
マーシャル諸島戦没者遺骨収集は、2月20日から3月7日の期間で実施され、本会から1人を派遣した。
マーシャル諸島共和国の首都マジュロからチャーター機でウォッゼ環礁ウォッゼ島に到着した派遣団は、現地調査派遣の調査結果に基づき、島内の集団埋葬地と思われる場所を掘削し、第八〇二海軍航空隊本部跡及び第六四警備隊本部跡周辺の2箇所から48柱の遺骨を収容した。
また、派遣団員は収容した遺骨を丁寧に洗骨し、ウォッゼ島の海岸で焼骨式並びに追悼式を行い戦没者の冥福を祈った。
ビスマーク諸島
ビスマーク諸島戦没者遺骨収集派遣団は、2月27日から3月14日の期間で実施され、本会から4人を派遣した。
派遣団は、2つの班に分かれ行動し、1班はブーゲンビル島南部の村落を廻り、現地住民の情報を基に試掘を行うなどして、バナ地区で5柱、ブイン地区で25柱を収容した。
2班は初めにニューブリテン島ラバウルに入り、過去に収容され東ニューブリテン州博物館に保管されていた遺骨を鑑定したが、日本兵の遺骨ではないと判定された。その後、ブカ島に移動し、現地調査派遣で収容し、ソファナ島に安置されていた遺骨を洗骨し鑑定する業務に従事した。
ブカ島で合流した派遣団は、日本兵の遺骨と判定された406柱を、3月10日、ソファナ島で焼骨し、追悼式を挙行した。
ミャンマー
ミャンマー戦没者遺骨収集派遣団は、3月1日から3月14日の期間で実施され、本会から2人を派遣した。
派遣団はシャン州(一班)とマンダレー地区(二班)に分かれ行動した。1班はペコン地区ブラバロオ村で、昨年度から継続して調査を行ってきた洞窟内で収容した遺骨31柱について、日本の鑑定員が作成した詳細な鑑定書に基づいて、日本兵の遺骨29柱、現地人の遺骨2柱を選別した。
2班は、メークテーラ周辺の村で活動し、インパレ村で既に収容し保管されていた遺骨1柱を受領し、現地協力者から寄せられた遺骨情報を基にレインドウ村で試掘を行ったが遺骨の発見にはいたらなかった。
ヤンゴンで合流した派遣団は、3月12日、北オカラッパ日本人墓地内にある政府建立の「ビルマ平和記念碑」前で追悼式を行い、英霊に哀悼の誠を捧げた。
日本遺族会は、日本戦没者遺骨収集推進協会が海外に未だ残されている遺骨に関する情報収集を行う現地調査に協力している。今回、東部ニューギニア、ミャンマー、ビスマーク諸島、インドの各地域に団員を派遣した。
東部ニューギニア
東部ニューギニア現地調査第六次派遣は、1月12日から26日の期間で、パプアニューギニア・モロベ州を調査した。
派遣団はフィンシュハーヘン周辺のシキ、ジオワネン、サテルベルグ等の集落で遺骨を捜索し、推定6柱を収容した。また、サラワケット山系のバワンで既に収容されていた遺骨推定1柱を受領し、日本兵埋葬地とされる場所2箇所を試掘したが、遺骨の発見にはいたらなかった。
ビスマーク諸島
ビスマーク諸島現地調査第六次派遣は、1月26日から2月9日の期間で実施され、パプアニューギニア・ブーゲンビル島を調査した。
今回派遣団は、バナ地区、ブイン地区及びシワイ地区の村落を廻り事業を周知し、遺骨の情報提供を呼びかけた。また、シコレワ村、ボウレコ村、コンガラ村で住民が発見し保管していた遺骨が日本兵の遺骨であることを確認し受領した。
今回派遣団が受領した推定3柱の遺骨は、ソファノ島の遺骨保管場所に安置された。
ミャンマー
ミャンマー現地調査第1次追加派遣は、1月21日から2月3日の期間で、第1次派遣で調査継続となっていたシャン州ペコン地区を調査した。また、第3次派遣は、2月6日から17日の期間で、マンダレー地方域マンダレー地区を調査した。
第1次追加派遣は、ペコン地区ブラバロオ村の洞窟内に残されている遺骨をすべて収容し、既に収容されている遺骨を合わせて、日本から同行した遺骨鑑定人が鑑定を行った。鑑定の結果、ミャンマー人の遺骨2柱を選別し、日本兵の遺骨を29柱と判定された。
第3次派遣は、キャクタロン、カズン、ミンジャン、タウンタ等で事業を周知した。また、メークテーラ地区の村落で寄せられた遺骨情報を基に、インパレ村で遺留品とともに発見された遺骨推定1柱を受領し、レインドウ村で住民が証言する数カ所の埋葬地場所を確認した。
インド
インド現地調査第三次派遣では、1月27日から2月8日の期間で、マニプール州インパールとナガランド州コヒマの2班に分かれ調査した。
派遣団は、在インド日本国大使館から大使館員が同行し、インド外務省東アジア局と今後の遺骨収集の進め方等について協議した。
また、今回現地の情報に基づき、ビシェンプールで重機を投入して掘削作業を実施したが、遺骨の発見にはいたらなかった。